インフルエンザ2017-2018

インフルエンザ感染症について 2017-2018年度〜流行の基準・予測について考えてみよう〜

当院では、インフルエンザのワクチン接種を積極的に勧めております。

そこで、福岡県と全国について、状況を把握するために、

今回このテーマを作りました。

 

国立感染症研究所感染症情報センターによると、

インフルエンザの流行の

【注意報】:流行の発生前であれば今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性があることを、

流行発生後であればその流行がまだ終わっていない可能性があること

 

【警報】:大きな流行の発生・継続が疑われること

 

と定義されています。

 

具体的な数字としては、定点当たりの発症者数は、

流行発生注意報(10)、流行発生警報の開始基準(30)、継続基準(10)以上になります。

 

また、「感染症の流行」が発症することをアウトブレイクと言います。

これは、映画のタイトル(2015年、ダスティン・ホフマン)にもなるぐらいなので、皆さんご存知だとお思います。

 

2015年〜2017年の福岡市のインフルエンザの発症者数の状況をイラスト化しました。

図1 定点あたりの報告数における注意報および警告の関係


それでは、図1を確認してみます。初めにデータ元は、国立感染症研究所感染症情報センターになります。

前述の定義で、昨年度のインフルエンザ感染症のアウトブレイクを見てみます。2017年度1月の第1週で発症者数が10を超え、注意報となり、第3週で警報になっています。確かに、注意報が出てから、警報に変わるまでの期間は4週間以内でした。

表1 福岡県の定点あたりのインフルエンザ感染症の発症者数

年度()

人数

定点当たりの発症数

備考

46(11月第2)

214

1.08

 

47(11月第3)

190

0.96

 

48(11月第4)

314

1.59

 

49(12月第1)

526

2.66

徴候

50(12月第2)

1059

5.35

 

51(12月第3)

1802

9.10

 

52(12月第4)

1802

9.10

 

1(1月第1)

2124

10.78

注意報

2(1月第2)

2992

15.11

 

3(1月第3)

6789

34.29

警報

4(1月第4)

10910

55.10

 

5(2月第1)

10896

55.03

 

 

 

表1から分かるように、注意報が出る前の2016w49から、定点当たりの発症者数は、1.59→2.66と約2倍になっており、流行の「徴候」が見えています。さらに2016w50では5.35へ倍増していることが分かります。

 

クリニック・診療所などの第一線で診療している医療従事者にとって、「徴候」の時期からの感染対策への勉強会・検討が必要でしょう。

 

 

感染対策の勉強会については、早すぎても忘れてしまうし、流行してしまうと現場では教育する時間もありません。そこで、本文では、医療機関が感染症対策を検討するのに最もふさわしい時期を「徴候」という定義にしました。

(「徴候」は、当院の主観であり、参考値)

図2 定点当たりの報告数における福岡県と全国の違い


図2では、2010年から2017年の8年間の経過を示しています。パッと見て、このグラフから言えることは、3つあります。

 

①毎年1月の第1週頃には、インフルエンザの感染症が流行している。

②福岡県は、全国平均と比較して、定点あたりの発症数が多い。

③心臓のリズムのように、一定の周期を持っている。

 

 

図2から言えるように、インフルエンザ感染症の発症者数の推移には、寒い・空気が乾燥した「季節」に流行することが分かりました。これは、乾燥した空気では、ウイルスが空気を舞いやすいため、拡散しやすいと説明されています。

8年間の経過から、2018年度を予測してみる

ちょっと難しいのですが、「時系列分析」という統計学があります。この分析は、時間の概念を考えることによって、その後の値を予測することが出来ます。経済では株価を予測したり、農業ではコメ高を予測したり、いろんな分野で活躍している解析手法になります。

医学に当てはめてみると、インフルエンザ感染症の発症者数を予測することが出来ます。8年間の経過(データ)を利用して、時系列分析を用いて数式化し、予測値を算出することが出来ます。

図3 実際のデータと予測値


図3では、「発症者数の予測値」と「実際の発症者数」を示しています。2つの値が、ほぼ一致していることが分かります。ことから、予測モデルの計算式の精度が高いことによって、予測値が算出されていることが分かります。

 

この高い精度のモデルを駆使して、実際に、本年度(2018年度)の予測を行ってみましょう。

図4 2017-2018年度の福岡県の発症者数の予測値


図4は、実際の値は青色、8年間のデータ(2017年34週まで)を用いた予測モデルの値は赤色、予測モデルを用いた2018年度の予測の値は、緑色に設定しています。

 

 

図4のグラフからパッと分かることは、

①2017年と予測された2018年度の動きはとても似ている。

(=山の形が似ている)

②流行時期における定点当たりの発症者数は、去年と同程度である。

(=山の高さが同じである)

 

ということでしょうか。他にも言えることがありますでしょうか。

表2 2017-2018年度の福岡県の発症者数の予測値

年度()

年度

定点当たり
の発症数

備考

 

年度

予測値

備考

49
(12
月第1)

2016

2.66

徴候

 

2017

1.15

 

50
(12月第2)

2016

5.35

 

 

2017

3.82

推定徴候

51
(12月第3)

2016

9.10

 

 

2017

7.54

 

52
(12月第4)

2016

9.10

 

 

2017

7.51

 

1
(1月第1)

2017

10.78

注意報

 

2017

7.51

 

2
(1月第2)

2017

15.11

 

 

2018

9.17

 

3
(1月第3)

2017

34.29

警報

 

2018

13.48

推定注意報

4
(1月第4)

2017

55.10

 

 

2018

32.64

推定警報

5
(2月第1)

2017

55.03

 

 

2018

53.44

 

 

表2では、実際の予測された具体的な数値と予測モデルから計算された値を見てみます。
(左:実際の値、右:予測値)

 

表2からいえることは

③去年と比較して、徴候は同じ時期だが、注意報の時期になるまでの期間が4週間ある(くすぶり状態である)。

④去年と比較して、注意報の時期が2週間遅れている。

⑤去年と比較して、警報(アウトブレイク)になるまでの時期が短い。

【まとめ】 〜福岡県〜

定点当たりのインフルエンザ感染症と診断される患者数は、去年と同じ程度になることが予測されるが、

いったん流行すると爆発的に増えるため、医療機関へのインフルエンザへの対策が必要である。

 

具体的には、

12月頃から発熱患者と生活習慣病などの状態が安定した定期受診患者の窓口を別々にするなどの隔離対策を行うことで、

健康な受診者が感染されないように配慮する必要がある。

図5 福岡市の定点当たりのインフルエンザ発症者数


データ元は、「自治体オープンデータのCKAN」に変わります。

このデータ元は、自治体オープンデータに参加する自治体の公共データを随時公開するオープンデータサイトです。

 

 

さて、図5からすぐに言えることは、

①早良区>城南区>その他の場所と、発症者数の違いが目立ちます。

②流行のピークは、第1週(w1)である。

③2016年度の流行の幅が長い。

表3 福岡市の人口(住民基本台帳より)

   

2015

 

2016

 

2017

 

東区

 

289,186

 

291,990

 

297,184

 

博多区

 

209,040

 

212,284

 

218,372

 

中央区

 

175,286

 

177,163

 

180,550

 

南区

 

249,497

 

251,579

 

253,363

 

城南区

 

122,360

 

122,488

 

122,749

 

早良区

 

213,898

 

215,124

 

215,524

 

西区

 

199,409

 

201,011

 

203,558

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表3にある住民基本台帳からの人口を見てみると、インフルエンザ感染症の発症者数と人口数の多さは、必ずしも一致しないようです。

 

 

理由は何でしょうか。ザクっと考えられたことを書きますと、

 

 

①早良区の発症状況を報告する医療機関が多い。

②小学校・中学校・高校などの人数が多い。

③実際に多い。

他に、何がありますでしょうか。それぞれ、皆さんで考えてみてください。

 

予防接種を受ける時期について考える

一般に、インフルエンザの流行は11月末〜12月頃から始まり、流行のピークは1月〜3月頃で終息します。

予防接種でワクチンを接種してから、
抗体ができるまで1〜3週間、その後3〜4ヶ月で抗体は徐々に減ります。

つまり、予防接種の効果は、接種後2週間目位から4ヶ月まで(長くても5ヶ月弱)です。

【ワンポイント】

福岡県のインフルエンザ予防接種については、

流行前までに免疫を高めたいのであれば10月中〜下旬に接種を行うことを推奨します。

流行のピークにあわせるならば11月上旬〜12月前までに接種を終えることを推奨します。



ちなみに、

当院での企業向けの出張予防接種については、11月頃に集中しています。

 

去年の風景
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